2019年度の本屋大賞を受賞した大人気作品。著者の瀬尾まいこさんの「夜明けのすべて」の小説と映画がとても良かったので、未読のままだった本作を一気読みしてみました。

※ネタバレ注意 ※小説のみの感想です(映画未視聴)。

主人公には葛藤がない旨は、第一章の一行目でばっちり明記されている。「困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない」おお、まるで断り書きのようだ。

小説と言えば、登場人物の葛藤を描くのが常だという先入観はここで取り払われ、もしかして珍しくて鮮度の高い小説なのでは?と早くも期待が膨らむ…いや待て、単なる冒頭の掴みとしての一行目であって、そのうち例に漏れず、ドロドロした何かが描かれるかと言うと、ぜーんぜん。最後まで、ちょっとおかしな、いい人ばかりのお話でありました。

ただ、さすが本屋大賞受賞作。主人公の優子の親がコロコロ変わるという設定が面白くて、どんどん読める。特に、優子の二度目の母である「梨花」という女性が物語をガンガン回してくれます。いい人ではあるんだろうけど、むちゃくちゃな人で、この人、ドラマ「Tシャツが乾くまで」で蒼井優が演じていた「咲子」のモデルなんじゃないの?って思うようなキャラクターでありました。離婚再婚を繰り返すのは自由だけど、リアルにこんな人いたら困るなぁ。でも、この小説の中ではみんな全然困っていなくて、むしろ全員彼女に感謝している…ここらへんが不思議でステキな登場人物と思う所以であります、、、

それはそうと、ハッピーとは何か?そこの所がしっかり描かれていて、ちゃんと生きている人じゃないと書けないよナと思う小説でもありました。何回も結婚する梨花さんは、娘である優子がピアノが欲しいと言えば、グランドピアノを持っている金持ちと結婚するし、自分が病気になって誰かしっかりした人に優子をまかせようとして東大出身の人と結婚したり、はたまた自分の治療費がかかるから金持ちの元旦那さんと再婚したり。はっきり言って「人を利用しまくり!」としか思えないんだけど。それもこれも全部が娘のためだから、梨花さんはいい人なんですと!ちなみに梨花さんは優子の実のお母さんではない。なかなか一般人には理解しづらいと思うけど、優子の実のお父さん(水戸さん)に優子を取られたくない?!という理由で、水戸さんと優子の文通をめちゃくちゃ邪魔するし、手紙が大量に溜まってるのですが、これって酷くない?と読者の私は思ったのですが、小説の中の人たちは全然酷いとは思わないみたい。そこらへんが共感しずらいと言うか、漫画チックと言うか。

ただし、梨花さんに良いようにされている(ように見える)金持ち男性と東大男性は、梨花さんにめっちゃ感謝している…血は繋がっていないけど、優子という家族との生活が与えられたことに感謝。幸せなのは金持ちだからでも東大だからでも、結婚しているからでも血が繋がっているからでもなくて、そういうのがなくても、たった一つ自分を支えてくれるものがあるなら大丈夫で幸せで。ってそういう話だった。

2019年と本屋大賞…今から7年前か。毒親だ、親がちゃだ、幼少期の心の傷があるから人生全部台無しだ…的な話が真っ盛りな世の中で、こんな小説、やっぱりみんな読みたいかもしれない。