※ネタバレ感想です。

中盤までの面白さは、今期ナンバー1

「Tシャツが乾くまで」の最終回がついに終わった。中盤までは、充(松山ケンイチ)が「なぜ失踪したのか?」というミステリー調の謎が牽引力を持っていた。また、それ以上に面白かったのは、充が帰ってきたとしても、妻の咲子(蒼井優)が樹生(中島歩)の方がいい!などと言い出しそうだったからだ。

実際に、ちょうど樹生が咲子の家に引っ越そうとして、充のスリッパや歯ブラシを捨てていたところに、充がひょっこり帰ってきたのだから、惜しいところであった。ただし、咲子と樹生は男女関係ではない。そもそもお互いの配偶者カップルも不倫ではなく、ただの話やすい相手だったらしい。「そういう距離感が快適で必要なのだ。それを分かってくれ」というのが、このドラマの主訴である。個人的には、咲子が6回目の結婚相手として樹生を選んでくれた方が面白かったが、そうはならなかった(それだと別のテーマになってしまう)。しかし、樹生の反応から「こっちを選ぶかもしれない」「あ、もうこっち来ないよね」という揺れが伝わってきた。この軽妙な感じがこのドラマをとても観やすくしてくれた。どちらかと言うと、この揺れにもう少し焦点をあわせてくれても良かったのに。蒼井優、松山ケンイチ、夏帆、中島歩。そして、喫茶「ひこうき」で働く、ただひとりの20代、高橋文哉の存在。この最高のキャスィングなら、絶妙な感情の揺れや距離感がいくらでも表現できたと思うのだが。

充が帰ってきてからが、やや失速?

充が帰ってきて、失踪の謎が解けると少しつまらなくなった。失踪癖や離婚癖というキャッチーな内容もいいし、咲子が失踪返しをしたり、「本当の咲子を知るための会?」を開いたり、運転免許証をトランプみたいに並べて5回も結婚していることを説明したり…とサービス満点ではあるのだが、だんだん茶番めいてきたことは否めない。

そして、人を好きになる理由が浅い。いや、失礼。人間性重視である。人が見ていない所でもちゃんと信号待ちをする。出社したら警備員さんにも受付嬢にもちゃんと挨拶をする。小さな所にその人の人間性が宿るのは真実だが、登場人物からは結婚からの逃走だけでなく、恋愛からの逃走も感じられた。世の中は色恋だけじゃないんだよ、という言動をしつつも、花火のチケットが自分のためだったことを知った咲子は感極まって泣いた。恋愛感情が人の行動や選択を大きく左右することもまた否めない。もし花火のチケットが自分のためでなく、あずさのためだったら?離婚後の充にかぼちゃを避けたメニューを用意して「おかえり」と言うことはなかったかもしれない。結婚は避けられても、恋愛感情は完全には避けられない。そのことが咲子の泣き顔から駄々洩れしていた。

結婚も離婚もちっとも真面目にやらない。ように見える咲子。

このドラマが言いたいことは実に明確であった。結婚したくない。家庭という枠が息苦しい。ここから出られないのは困る。でも孤独は嫌だ…。快適な距離で人と付き合いたい。分かる。同じ令和に住むものとして、同感ではある。

ただし、最終回で咲子が充に離婚しようと言い出した時のセリフには少し驚いた。「ここ数日、充だって居心地悪かったでしょう?だから離婚した方がいい」えっ!?ここ数日?数日居心地悪いと、もう離婚?いやいや、もう少し頑張れ。っていうか、結婚や離婚はもっと真面目にやりましょう!

実際に結婚する人が減っている。この半世紀で婚姻件数はおよそ半分になったそうだ。なぜ減ったのか?必ずしも結婚しなくてもいい時代だからだ。率直に言うと一人の方が楽だからだ。ドラマの登場人物たちは、いつも洗濯ばかりしていて、まるで洗濯が生活そのもののようだ。あの洗濯物の多さが、なんだか結婚の象徴のように感じた。

終盤で「喫茶ひこうき」が示したコミュニティの形。

最終回を象徴するのが、何事も長続きしない直人(高椅文哉)が「喫茶ひこうき」を継ぐという結末だ。直人が長続きできているのは、ここが人と適度な距離を保てる場所だからだ。登場人物たちは、自分の置かれた場所から時々出てきてはここに来る。たぶん安心するのだ。人口密度が濃すぎても、孤独感が強すぎても、人は息が苦しくなる。「喫茶ひこうき」のお客さんは全くの知らない人同士ではない。快適な距離で話せる間柄だ。これが第3金曜日のコインランドリーでの充とあずさの関係なのだろう。令和の私たちに必要なものって、もしかして、これ?