ドラマ

「大切なことはすべて君が教えてくれた」どっちの愛の量が多いのか?愛の残酷な部分を感じるドラマだった。(ネタバレ感想)

土日で一気見したところ、自分的には残酷で胸が痛いドラマだった。

「愛の量」は、目には見えないはずだが、どっちが多いか少ないか?なぜか確実に感じてしまう。それが登場人物たちを傷つけていた。

「愛の量」を多く獲得した者が幸せを手に入れて、その裏で「愛の量」が少ない者が傷ついている。だとしたら、誰かの心を殺して、その傷の上で幸せが成立している可能性はあるよね…

(以下、ネタバレを含みます)

夏実(戸田恵梨香)と修二(三浦春馬)が結婚まで紆余曲折したのも、夏実が「愛の量」を揃えることにこだわったからだ。夏実曰く「私の方が修二を好きすぎる。同じくらい愛する者同士だけが結婚できる」(そんなこたあないと思いますけどね)

ストーリーは、教員カップルだった夏実と修二の結婚までが軸になっているが、登場人物も多く、その枝葉のストーリーの方にも重い意味が含まれていた。

自分的には、どうも枝葉の方が気になった。夏実と修二がお互いの「愛の量」を揃えるまでの大きな流れの中で、ほんわかした2人の幸せの裏で、傷ついていた登場人物について、自分が感じたことを記録していきたいと思う。

さやか(篠田麻里子)

未だ修二に思いが残っているのに、ウエディングプランナーとして夏実と修二の結婚式を担当。2人はさやかの気持ちに全く配慮しない。「気が付かない」ことの、そら恐ろしさ。幸せの城を誰かの傷の上に築く残酷さ。

最初に気になったのは、夏実とルームシェアしている「さやか」である。夏実と修二の同級生で、修二の元カノ。学生時代に修二と付き合っていたが、就職してお互いに忙しくなり、連絡が途絶えがちになったらしい。嫌いになって別れた訳ではなく、言わば自然消滅のような形だろう。なのに今は、友人として2人を応援する立場になっている。ウエディングプランナーとして2人の結婚式を担当するため、誰よりも密に2人の結婚にかかわるが、実は修二への思いを捨てきれずにいる。

「さかや」には、新しい彼氏もいないようだが、気持ちの良い態度で熱心に2人の結婚式の準備に対応していた。夏実には「修二のこと、私がもう何とも思っていないと思ってた?」と言う場面が一度だけあったが、夏実の反応は薄かった。「さやか」の顔をちらりと見ただけだ。さすがに笑ってはいなかったが特に何の発言もなく、それっきりだった。にもかかわらず、夏実はその後も何かあると、相談するのは「さやか」だった。

眼中にない?修二の心の中に「さやか」はいない。夏実にはその自信があったのだろう。その証拠に、修二と寝た(と思われている)女子生徒の「ひかり」(武井咲)に対しては「取られたくない」と必死だった。修二の心の中に「ひかり」がいると感じたからだ。

ひどいな、残酷だな。夏実と「さやか」の友情が強い。と考えればいいのだろうか?いや、だとしても、夏実と修二が「さやか」の気持ちを歯牙にもかけないことが、とても不思議だった。

ひかり(武井咲) 両親の「愛の量が」お姉さんより少ない。

修二のクラスの生徒。すごい美人だが、卵巣機能不全という先天性の病気を持ち、自分は「欠陥品」だとのコンプレックスがある。「ひかり」が先生である修二と寝た(と思われている)ことが原因で、せっかく3か月後には結婚式をするはずだった夏実と修二の人生をめちゃくちゃにしてしまった…と言うと悪役のようだが、内情を聞くと「ひかり」の辛さに寄り添いたくなる。

2人姉妹だが、姉は全てにおいて素晴らしい。両親は「ひかり」より姉の方を多く愛した。交通事故で2人のうち片方だけが助かった、と両親が聞いた時、その片方が姉ではなく「ひかり」だったことに両親は一瞬がっかりした。そのがっかりした顔を「ひかり」は見てしまったのだった。「愛の量」は同じではなかった。

「そんなことがあってはならない」と誰もが言うだろう。だけど、絶対にあってはならないことが「ある」から人は傷つく。

憧れの姉のワンピースを着て「お姉ちゃんみたいになりたくて」フラフラと出歩いた時、事件は起こり、バーで泥酔した修二と偶然に会い、修二の部屋で寝てしまった。夏実と修二の結婚を壊してしまったのは、遡れば、「愛の量」がお姉ちゃんより少ないことに傷ついたひかりの行動だ。原因は「愛の量」である。

高校の先生が生徒と寝ていたとなると、さすがに大騒ぎだ。結局は話は広まり、修二は半年間の謹慎処分、結婚式はキャンセル。本当に寝たかどうかは確認取れていないのに、裸で寝ている修二と「ひかり」と特定できる腕の写真だけが拡散された。

「ひかり」の事情を知った修二の心の中に、彼女の力になりたいという気持ちが住み着いた。ただひたすら頭を下げる修二の姿が痛々しかった。

修二の兄ちゃん(新井浩文) 両親の「愛の量」が弟の修二より少ない。

修二の実家を継いでいるのは、兄ちゃんだ。おそらく小さい頃から出来が良かった次男の修二は、両親の期待を汲み取って教師になった。両親が自慢するのは修二の方。兄ちゃんは修二の方が多く愛されていることに苦しんでいた。

修二が美人で可愛い婚約者、夏実を実家に連れてきた日。修二の人生に嫉妬した兄ちゃんはお母さんに酷い暴力を振るった。酒屋を継いでいるのは自分なのに、家を出て好きなことをしている修二ばかりを可愛がる母親を殴った。「修二が原因だ」と叫んで暴れる兄ちゃんを目の当たりにしてショックを受けた修二は、その夜、バーで泥酔する。そこで偶然にひかりと会い、「生徒と寝た」先生になってしまったのだ。遡れば、夏実と修二の結婚を滅茶苦茶にしてしまったのは、「愛の量」が弟より少ないことに傷ついた兄ちゃんの心。兄ちゃんが暴れて修二にショックを与えなければ、修二は泥酔などしなかった。ここでも原因は「愛の量」である。

夏美と修二の「愛の量」はどっちが多いか?

ここから先は、ストーリーの本筋、夏実と修二の「愛の量」について考えてみたい。2人の出会い等々は描かれていないが、夏美と修二のセリフの端々から推測すると、夏実のリードが明らかに強い。修二は、教壇で性教育をする際に、夏実との関係を例として「最初は流れでそうなったが、今は夏実のことが、人生が変わってもいいと思えるくらい大切だ」と真剣な思いを語っている。

ただし、まさか自分が教師を辞めるほどに大きく人生が変わるとは…この時の修二は思ってもいなかったはずだ。

夏実は厳しかった。修二の心の中に「ひかり」がいることを許さなかった。あくまで「結果として」ではあるけれど、夏実がしたことは、修二の心の中から「ひかり」を追い出し、修二が「自分を一番にすること」である。優しくて受け身で、いつも周囲の期待に応える行動を選ぶ修二が、初めて自分から「ひかり」を心の中に住まわせたことに強い嫉妬を覚えた。だからこそ、婚約を破棄したり、妊娠しているのに「妊娠を理由に自分が選ばれるのは嫌だから」と、妊娠を修二には告げなかった。でも結局はいざ「ひかり」に修二を取られそうになると、修二を追いかけるし、妊娠6ヶ月辺りでタイミングを見て、妊娠を報告している。

夏実は「修二の隣にいるのが自分じゃないと絶対に嫌だ」という強い気持ちと意志があるにもかかわらず、修二の「父親になれないだろうか」という申し出を一度は断り、婚約者を妊娠させて責任を取らなかった男にさせ、教師を辞職する立場に追い込んでしまった。

修二がもう少し早く「ひかりを傷つけたとしても、夏実を大切にするべき」という結論に至っていたら…教師を続けられたのだ。婚約中に揉めて一度は別れ、やっぱり考え直して結婚するという経緯はわかるが、タイミングが最悪であった。修二の夏実に対する「愛の量」が、夏実の修二にたいする「愛の量」と同じくらいに揃うのが、少しだけ遅かった。

夏実が修二に教えてくれた「大切なこと」とは?

ひとつは「周囲の期待を読み取って、その期待を実現する生き方は、もう終わりにしよう」ということ。修二が教師になったのは、固い仕事に憧れていた両親が「教師」にでもなったら喜ぶだろうな、と思ったからだ。ただし、修二には「直すべき所」はあったが、教師として適性はあった。

しかも「直すべき所」に気が付き、修正できる環境に恵まれていた。十分に修正できる可能性があったのだから、辞める必要はなかった。

夏美の指摘は的を得ていた部分もあるが、結局、修二は大きく変わっていない。夏実の期待に応えて「ひかり」を傷つけても夏美を大切にする決心をしたのだから。

もう一つは、「夏実を一番に大切にしないと、結婚して子供を育てることはできない」である。確かに修二は優しすぎた。生徒の「ひかり」に「女として見て」と言われたのだから、恋愛感情を持たれていることを知りつつも、ラスト直前まで誤解と期待をさせる行動を取っている。

「ひかり」の北海道旅行の出発をホームで見送る場面で、修二も乗ってしまうんだろうな、とは思ったが、本当に乗ってしまった時には、これじゃあ確かに夏実もたまったもんじゃないだろうと同情してしまった。

結局は、修二は「ひかり」に「君を愛していない」と告げたが、もう少し早く言うべきだったのだ。ただし、両親からの愛の量が足りなくてズタズタに苦しんでいる人に、この言い方はきつい。ベタな説明でもいいから、恋愛だけが愛じゃない、と話してほしかった。

教師として「ひかり」を心配する心の中に、「女として見る」気持ちはあったのだろうか?あっても、ほんの少しである。

それを許さなかった夏美は正しかったのかもしれない。それを許したまま結婚したら、優しくてモテモテで、誤解を招く行動の多い高校教師と共に子育てするのは、確かに難ありだろう。母は強し、である。結婚して子育てできる男にしっかり教育したね…。

終盤では、「夏美がいれば他のことなんてどうでもいいって、どうして思えなかったんだろう」と修二は言った。修二が再就職したのはクリーンマットの会社だった。確かに、別の仕事でやりがいが見いだせれば、それでいい。

だけど、夏美がいちばん好きだった「教師として働いている修二」は、もう見ることができない。

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