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映画「ブレイブー群青戦記」2つのエピローグとエンドロールが語る、三浦春馬の遺作としての意味。

 

鑑賞して驚いた。ファンなら絶対の絶対に気が付く。

春馬くんの著書「日本製」の根底に流れる「継承」の在り方が、劇中の「ある小道具」を通して、胸に沁みる形で表現されていたのだ。とても偶然とは思えない。

映画においての「小道具」とは、「幸福の黄色いハンカチ」に代表されるように、登場人物の心理をより深く表現するものだ。いい映画は「小道具」が効いている。作品によっては「要」と言ってもいい。本作は、そんな「小道具」にまるで春馬くんの心が込められたような作品だっだ。撮影時期から考えて意図した演出ではないが、ファンとしてはとても嬉しい。

小道具となったのは、手に怪我をした蒼(新田真剣佑)が遥(山崎紘奈)に巻いてもらった手拭いである。正確には、その手ぬぐいに描かれた「朝顔の柄」。マッケンが「大切にするよ」と約束した手拭いは血だらけとなり、おそらく実用できない「死んだ」状態になったのだが、その柄は脈々と「生きて」時代を超えて存在していた。

その「朝顔の柄」を使った感動的な場面が、1つめのエピローグ(後日談)のラストで描かれた。ほんの何秒か、遥のスマホの中が映る。彼女が指で画面を広げる、その一瞬を見逃してはならない。もう同じ世界にはいないのに、もう会うことはできないのに、繋がっていると確信した瞬間だ。

死んで生きる。その在り方は、春馬くんが4年かがりで47都道府県すべてを訪れ、自身がインタビュアーを務めた著書「日本製」の記述にも見られる。

以下は、岩手県の「漆器」の回からの抜粋である。

「ウルシの木は自らの命と引き換えに漆を与え、その漆が漆器という新しい命となり、人の手に届き、受け継がれていくといっていいかもしれません…(中略)…伐り倒される、そんな定めの木。けれども、その身を削って出る樹液は昔から接着剤になり抗菌作用を持ち…(略)…自分もこの身を削るといったら美化し過ぎかもしれませんが、体や心を使って表現することで、そんな風になれたらと思わずにはいられません」(「日本製」P.31「三浦春馬が考える未来と継承」より)

上記のコラムで春馬くんは「そんな風になれたら」と言っている。そんな風に?ウルシの木のように?だとしたら、胸が張り裂けてしまう。なぜなら、ウルシの木の「身を削って」は比喩ではない。まず幹に一文字の傷をつける。4日後、最初の傷の上にまた傷をつける。また4日後、その上に次の傷をつける…と続けながら、傷から滲み出た樹液を掻き取っていく。つけられた傷はそこを治そうとして樹液を出す。それが漆なのだ。

最後の「せかほし」で春馬くんが見せてくれたのは、わざわざ家から持ってきてくれた「漆器」だった。やはり特別な思いがあったのではないか。春馬くんにしかない、あの独特な魅力は、樹液だったのではないか。

春馬くんは、身を削って周りにいろんなものを与え、亡くなってからもまた、人々に影響を与え続けている。その影響がさらに誰かに影響を与え、時に接着剤になり抗菌作用を持ち…まさにウルシの木のようだ。実際、多くの俳優に、アーティストに、クリエイターに、そしてファンに、素晴らしい影響と光を与えていることは明らかだ。春馬くんは「そんな風に」なったのだ。

それは思いが叶ったというより「運命」(さだめ)のように思う。

「ブレイブー群青戦記」で元康(徳川家康)を演じる春馬くんは「運命(さだめ)」というセリフを何度か口にする。大写しになった春馬くんが「さだめ」と言う時、そこに全く暗さはない。その表情を目に心に焼き付けたい。

2つめのエピローグ(後日談)は、マッケンがいよいよ「自分を信じて生きる道」のスタートに立つ場面だ。本作は、歴史オタクで引っ込み思案だった主人公が「自分自身を信じる」までの物語でもある。

本編では、人はここまで大切なものを失わなければ変われないのか?と思う残酷なシーンや、目が離せないアクションが続く。そんな中で元康が現れると画面の空気が変わる。元康は蒼に少しずつ影響を与えるが、決定的に変わる心を与えたのは、「力を持つ者には、それに見合った運命(さだめ)がある。よく考えろ。お主がなにを信じて、光となるのか?」と問うた時だ。

驚異的な能力を持っていた蒼がなぜ自分を信じることができなかったのか?自分の一体なにを信じろと言うのか?元康の問いにより、蒼はその答えを出している。それは現実世界の高校生全員に届けたい内容だ。自分を信じるとは、自分の優れた部分を探すのではない。

2つめのエピローグで描かれた結論には、春馬くんとマッケンの関係を勝手にイメージして重ねてしまう。元康が最後の場面で「頼むぞ」と言って蒼に渡した刀。受け取る蒼の手には、血が滲んだ「朝顔の柄」の手拭いが巻かれていた。大切な手拭いは死んでも、その柄は新しい命を生み出し、世に生きる。守りたかったものは、死んでも守られる。「日本製」の継承の心とも、そして春馬くん自身とも重なる。

そして2回のエンドロールに感謝したい。2回目のエンドロールの最初には「三浦春馬」の4文字があった。ファンにとって「三浦春馬」とは、もはや4字熟語。SNSではそんな話題を目にしたが、まさにその通り。映画の最後に現れる白抜きの4文字からは、「三浦春馬」という俳優の確かな存在が、その素晴らしさが溢れてくる。

本作において、三浦春馬ファンは「映画を観てきました!」とは言わない。「加勢してきました!」と言う。劇中で、春馬くんは大きく腕を広げて「加勢いたす」と言った。その腕の、きっと「樹液」から醸し出された温かいオーラから勇気をもらおう。

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