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ドラマ「tourist ツーリスト」何かが私の方に来て、また去っていく。1話&インタビュー映像感想。

「Night Diver」のMVからびしょ濡れになって抜け出してきた三浦春馬が、髪を乾かして、白いシャツを白いTシャツに着替えて、そのまんま旅に出ている感じのドラマだった。

1話の監督は三浦春馬のMV「Fight for your heart」の監督でもある。2話3話もMVを得意とする映像ディレクターが監督しており、さらに3話を通して、膨大と言っていい数のMV制作経験を持つクリエイティブディレクターが名を連ねている。Paraviが初のオリジナルドラマとして制作したというだけあって、気合い充分。今観ても鮮度の高いドラマになっている。

まず構成が新しい。3話を通して三浦春馬が謎の男ツーリストを演じるが、1話2話3話と少しずつ謎は解き明かされては行くものの、彼の葛藤をストレートに描くのではない。3話それぞれの女性の葛藤を描いているのである。にもかかわらず、彼の切なさの方が強く伝わってくる。

撮影は、1話バンコク、2話台北、1話ホーチミン。これらの映像を見るだけでも価値があり、アジア旅行に行っていないのに、行った気分になれる。

よく映画好きな人で「ナレーションで全部言うな、映像で表現しろ」とか言って怒る人がいるけど、このドラマはなんと2バーションある。フルバージョンでは観る側のイマジネーションを喚起し、天久真(三浦春馬)バージョンでは内面の声がナレーションで入っている。自分はフルバージョンを先に観て、さんざん妄想してから天久真バージョンを観て答え合わせをしたが、あまり当たっていなかった…。あれ?ちょっと真くん、思ったよりプレイボーイ感強いね…天才恋愛詐欺師の才能も一瞬見えたり。思わず笑ってしまって、二度おいしいドラマだと思った。

2バージョンのドラマに加えて、これは観て良かったと思ったのが、インタビュー映像だ。「三浦春馬×HYUKOHスペシャル対談」の内容は、絶対に忘れたくない。

ドラマに楽曲を提供しているHYUKOH(ヒョゴ)というバンドの4人のメンバーと三浦春馬がかわりばんこにインタビュアーになって質問し合うのだが、HYUKOHのギター担当イム・ヒョンジェが、すっごくいい質問をした。

「幸せ」の演技をする時は本当に「幸せ」になりますか?

そう聞かれた三浦春馬が、一瞬ふいをつかれて目を閉じる。次の瞬間にはふうっーと息を吐いた。息が止まるような質問なんてめったにできるもんじゃない。その春馬くんの表情に、4人のバンドメンバーがどっと笑う。「俺ってば、もしかして幸せなのかも」って春馬くん絶対いま思ったよね…。そんなふうに思える顔だった。それがすごく嬉しい。

何かに慣れ始めて落ち着こうと思っていたら去って行かれる。

そして、ドラマの中で流れる「LOVE YA!」と「Comes And Goes」の2曲について、作詞作曲したボーカル&ギターのオ・ヒョクがそのコンセプトに言及している。ドラマの中で登場人物の感情が大きく動く時に流れる「LOVE YA!」は「世の中の全ての様々な形として存在する恋人たちの曲」だと言う。もう一曲の「Comes And Goes」はドラマのコンセプトそのものと言ってもいい。

「何かが私の方に来て、また去っていく。という気持ちを込めて書いた曲。何かに慣れ始めて落ち着こうと思っていたら去って行かれる。その先には新しいスタートがあり、またその先があって終わりがある。(HYUKOH オ・ヒョク)」

ここから先は少々ネタバレとなります。ご了承いただける方のみご覧ください。

tourist ツーリスト1話感想バンコク編/水川あさみ

財布が入ったリュックを盗まれた天久真(三浦春馬)を見かけたドラマのプロデューサー野上さつき(水川あさみ)は、「5,000バーツであなたを買うから、1日付き合って」と真に言う。いや別に真をどうこうしようって訳じゃなくて、姉御肌というか、お金のない人を放ってもおけないけど、お金を「貸す」とか「あげる」っていうのも気を使わせるし。で、本当はあげてもいい位の気持ちだったと思う。タイでは良いことをすると良いことがある「タンブン」っていう言葉もあるしね。

真は「買われるのはいやじゃないけど、自分の値段くらい自分で決めます」と言って、10,000バーツに値段を吊り上げる。「その分楽しませます」とかなんとか言っちゃって、律儀に10,000バーツ分働こうする。

しかし、この二人…。けっこうお似合いだと思うんだけど、お互いにマウント取り合ってなかなか恋仲にはならない。さつきは恋も仕事もキャリアがあって、旅先でのアバンチュールに臆するようにも見えず、真の方も「買われるということは、欲望を満たすこと」と言い放って、別に恥ずかしがる様子もないのに、何やらプライドが邪魔するらしい。

ちょっと心が近づいたかな、と思うとすぐマウントを取り合って離れる。けどまた近づく。一体どうしたいんですかね、という態度の二人。このマウントの取り合いが一つの見どころなのかもしれない。

バンコクの街を満喫した後、さつきの部屋の前まで送ってきた真。「じゃあ、ここだから」と言って部屋に入ろうとするさつきだが、真は帰ろうとしない。さつきが「どうしたの?帰りたくないの?」と聞いても、真は応えない。表情を消した顔で、ただ突っ立っている。その顔と佇まいが子犬でもない子猫でもない、大人の男とも思えない。どういう生物がわからないけど、これ見て帰れって言える人あんまりいないと思う。

さつきが「入る?」と言うと、真は無表情から一転して少しだけ笑ってみせる。その瞬間「LOVE YA!」が流れ出す。1話でいちばんいいシーンはここだろうな。

さつきの部屋に入ってからが更に面白くなる。最もおかしいセリフは、ここに書くのも気がひけるのだが、(少しマイルドにして書きます)さつきが真に「最後にしたのはいつ?」と聞く。こういうこと聞く方も聞く方だが、答える方も答える方で、真はなんと「昨日」と言う。

部屋に入れてもらえて、これからが正念場だっていう時になんてこと言うんだ。嘘でも本当でもいいから「覚えていないくらい、ずっと前」って言った方がいいと思うが。

この先がまたかみ合わない。「昨日」と言われたさつきは、驚きつつも真に寄って行ってキスシーンに持ち込む。旅の思い出でけっこうけだらけ、とでも思ったのだろうか。対する真はおとなしくキスシーンに応じているものの、「そんなつもりじゃない」とか言う。

真の方は心通わせたい。さつきの方はあまり旅先で出会った人の人生に深く関わりたくない。傷つかないように細心の注意を払っているのだ。

この後、物語は大きく動いて山場をむかえるが、最後に空港で別れる時、すっごく寂しそうな顔をするのは真の方である。3話の中ではいちばん辛そうだった。さつきと別れるのが辛いんじゃない。さつきには茨の道でも何でも自分の道が見えているけど、真にはまだ何も見えていない。ひとりぽつんと道の途中に残されて、これからも見えない道を旅するしかないからだ。

最後に。

1話で特に楽しそうだったさつきと真のシーンは3つ。ひとつは、二人でUNOをする場面(フルバージョン)。二つ目は二人でトゥクトゥク(タイの乗り物)に乗る場面。3つめは水かけ祭りで二人で水をかけあう場面。どれも思いっきり笑っている。特に水かけ祭りでは真は白いTシャツでまたまた水浸しになるので、ここでも「Night Diver」のMVを思い出す。作品と作品が繋がっている感じがして妄想が膨らみやすい。

感情とか潜在意識は、想像とリアルの区別はあんまりついていないような気がする。そう思ったら、少しだけ楽になる。三浦春馬はもう年も取らないし、もう誰のものにもならない。

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