第9話のタイトルは、「善玉と悪玉」。
善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れたのか、長澤まさみの体調が悪いらしい。
また会社組織(テレビ局の内部)も腸内環境に例えられた。ただ絶え間なく循環させながら摂取と排泄を繰り返し、ゴードンが辞めても、何事もなかったかのように活動し続ける。会社の体内に残る自分は、善玉なのだろうか、悪玉なのだろうか、とナレーション(長澤まさみ)が言っていた。
さて第9話、意外にもニュース8のディレクター滝川(三浦貴大)が悪玉だった。長澤まさみの同期でもあり、「まあ普通に会社にいるよね、こういう人」という役柄なのかと思っていたが、しれっと悪いことができる人だったのか….ちょっとショック。
その残念な悪玉キャラクターは、長澤まさみとの短い会話で、充分に表現されていた。自信満々にぐいぐいと心無い提案をしてくる三浦貴大。対する長澤まさみの「はぁ?」とか「何言ってんだ、こいつ」的な軽蔑の眼差しが最高だった。会話はたった2回。それだけでニュース8のディレクターは悪玉菌強めだな…と明確に伝わってきた。
一回目は、長澤まさみを「ちょっといいかな」と呼んで、岸本(ゴードン)がクビになった理由を話すのだが、端的でクールな話し方の割には「この人、アホなの?」と思うくらい、上層部から言われたことに疑問を持たない。
ここまで観てきた視聴者ならわかることだが、どうやら平川刑事は岸本から貰った50万を貰わなかったことにしたようだ。「岸本に脅された。その時の会話を録音してある」とテレビ局の上層部に言いつけたらしいが、50万貰ってないなら、どうやって「50万もらった時の会話」が録音できるんでしょう?それをネタに脅されるのは不可能だし、「追加情報よこせ」と脅されるのも変。
長澤まさみが「えっ、おかしくない?」と言うと、三浦貴大は「とにかくそうらしい」と言って去ってしまった。上層部が言うことについて何か考えるということは一切しない生活習慣なのだ。
2回目もまた「ちょっといいかな」と好青年は長澤まさみを呼ぶ。「例の岸本くんの真犯人、とりあえず俺がやってもいいかな?」と最初に行言った時、一瞬でもニュース8でスクープをやってくれるのか?と期待した私がバカだった。ゴードンが命がけで獲得した連続殺人事件の真犯人情報を「この情報なら、ユーチューバーに高く売れると思うんだよね」という下品な提案をしてきたのだった…
こんなに下品なことを、こんなにスマートに言うの?ある意味「真実」を言っている。「これは、ネタじゃなくて事実なんだから、岸本くんのもクソもないじゃん。あいつが作った話って言うんなら著作権とか発生するかもしれないけど」だって。確かにそうだし、ジャーナリスト(もどき)への痛烈な嫌みにも聞こえる。
そして、そんなカッコイイことを言ったその口で「情報を売る」提案をするのだが、はじめは、もちろんお金のためなんて言わない。「松本さんの冤罪、真犯人の逮捕、どちらも急ぐべき事で、真実をこのまま眠らせておくわけにもいかないじゃん。YouTube等になると信憑性が格段に落ちてしまうのは免れないけど、広く伝えた方が絶対いいって!」とぐいぐい押してくる。
しかし、長澤まさみに拒否されると、「いや、情報料は独り占めしない。もちろん岸本にも何パーセントかは渡すつもりだよ」と、ついお金の話に触れてしまう。
長澤まさみがギョッとすると「いや、でも大事な話でしょ」と、どこまでも自分には非がないという態度で乗り切ろうとする。
滝川の話、気を付けて聞けばツッコミどころ多いんだが、「俺は理路整然、俺が正しい」という自信に溢れた雰囲気でいっぱいだ。いつもこんな話し方で上からの指示を現場に押し通しているのだろうか。
この人こそ、初めから悪玉菌だったわけでなく、社内のいろいろな菌に触れ、強そうな菌に加勢しているうちに、「情報は金」だという考え方、人を傷つけるのはやむを得ない?!という環境に麻痺しちゃっているのではないだろうか?自分が立派な悪玉菌になっていることに気が付いている?あまり気が付いていないように見える。
結局は、ニュース8の看板アナウンサーを怒らせてまで情報を売るわけはなく、「まあ、考えてみてよ」とスマートに言い放って去って行った。
このドラマでは、キャラクター背景が最初から紹介されているのはゴードンくらいで、他の登場人物は、主演の長澤まさみでさえ、あまり詳しい説明はない。キャラクターの根底に流れるものが何であるのか?ベテラン勢は皆、演技だけでキャラクター表現しているのだから凄い実力だ。
9話では、2人の会話よりもっともっと大きな事件が起こった。ゴードンが取材した大門亮は亡くなってしまい、最後の場面では、村井が「どいつもこいつも正義づらしやがって、何が報道だ、何がニュース8だ」と大暴れした。しかし、「善玉と悪玉」というタイトルから言って、組織内で悪玉菌が強くなる様子をイメージすることは重要だ。だって、悪玉菌にみんなが加勢するから、悪い権力が巨大化するんじゃ…?
長澤まさみは、世の中の悪玉菌をどんどん軽蔑の眼差しで見て欲しい。その美しいクールな眼差しが悪玉菌を消毒する効果があるかもしれないから。
(以下、妄想を含みます)
元フライデーボンボンのディレクター村井(岡部たかし)が、今回は完全に物語を引っ張っていた。ニュース8の現場に乗り込んで椅子を振り回したのも驚いたが、最も素晴らしいと思ったのは、「俺は世直しのために汚職政治家を倒したいとか1ミリも思っていない。一生にあるかないかのスクープ取れて嬉しくてしょうがないだけ」と言いながらも、視聴者に「そうじゃないよね」と思わせたことである。セリフと真逆の心を表現する演技が興味深い。
ドッタンバッタン画面の中で派手に暴れる村井を見ながら、「週刊潮流」の編集長がゴードンに胸をトントンと叩いてみせて、「ここにあるべきものがあるかどうかだよ」と言ったことを思い出した。言ってしまえばジャーナリスト魂みたいなものが、きっと村井にはあるんだろう。
そしてもう一人、気になるのが斎藤正一(鈴木亮平)だ。この人こそキャラクター説明が少ないが、立っているだけで変な感じが出ている。「権力の犬になるくらいだったら、俺が権力を握る」とか「俺が日本を動かす」とか思っているに違いない。
最後にちょっとだけ善玉の顔を見せる可能性を期待してしまうが、基本的には悪玉だと思っている。だって、名前が「正一」だよ?脚本家さんがしゃれで名前をつけたんだと思うな…。最後の妄想が当たるかどうか、最終回が楽しみ!
◎エルピス10話 12月26日(月)22:00~ ◎エルピス1話~最新話FOD